Locals川と仕事をする船頭さんが考える
プラスチックごみの現状と亀岡市の取り組み

亀岡市の中央を横切り大阪湾まで流れる桂川。亀岡から保津峡を抜けて嵯峨嵐山までのおよそ16kmは「保津川」と呼ばれ親しまれています。保津峡を流れる急流を利用して行われる「保津川下り」の歴史は120年以上もあり、今では海外からも多くの人が訪れる京都の人気観光スポットです。

岩と岩の間の急流を勢いよくくだるため、とてもスリル満点です。また船頭さんの軽快なトークとともに京都の美しい渓谷を堪能することができます。

今回は、そんな「保津川下り」を運営する保津川遊船企業組合(以下、保津川遊船)の代表理事でありながら、環境問題に取り組む特定非営利活動法人プロジェクト保津川(以下、プロジェクト保津川)の活動にも取り組む豊田 知八(とよた ともや)さんにお話を伺いました。

保津川遊船企業組合豊田 知八

https://www.hozugawakudari.jp/

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記者としてのジレンマ

昔から好奇心旺盛だったという豊田さんは若い頃からジャーナリストに憧れていたそうで、保津川遊船で仕事を始める前には新聞記者の仕事をされていたそうです。

「世の中のことが知りたくて新聞記者になったんですけど、いろんな人の話を聞いていくと、深い部分が見えてくるんですね。けれど誌面ではその深い部分までは記事にすることができなかったんですよ。問題の解決に繋がるような記事を世に伝えたいのにできないというジレンマがありましたね」

バブル崩壊後の厳しい情勢を取材し、淡々と記事にするということ、そしてその問題に踏み込んでいけないということにストレスを感じていたという豊田さん。

そんな中、出会ったのが保津川下りでした。

「保津橋立て替えの取材をした時、保津川下りの船頭さんが橋の下をすうっと通っていくのを見たんです。ものすごく特殊な仕事だなと思いました」

それからしばらくして、記者としての仕事に息詰まっていた頃、偶然にも豊田さんのお父様が保津川下りの船に携わる仕事をしていたことから、具体的に船頭としての仕事に興味を持ちます。

「船頭さんが川を力づよく下っていくのを見て、とてもかっこいいなと思いました。こういう仕事があるのかって衝撃を受けたんです。その時は大分仕事につまずいてますから」

そして記者を辞めて保津川下りの船頭として修行をはじめます。

船頭という仕事

「最初は川の流れにそって勝手に流れていくと思ってたんですね、これは楽そうやなって正直思っていたんですが、やってみたら地獄でした。」

こんなに大変な仕事があるのかと思うほど、最初の1年は大変だったそう。

具体的に船頭の仕事には大きく分けて、櫂(かい)、竿(さお)、舵(かじ)の3つの仕事があります。

櫂(かい)とは、流れる水をかいて舟を進める仕事です。水の流れに流されてしまわないよう、下っている約1時間半ずっと櫂を引き続けます。

「最初は、手がぼろぼろになるんですよ。皮がめくれて水ぶくれをおこしても、次の日も同じように櫂を引き続けなければいけないんです」

どんなに手の皮がめくれても、細かい作業に制限がかかってしまうため手袋は使わないのだとか。豆を作って、どんな環境でも痛くならないよう「手をつくる」こともまた修行の一つだと教わります。

2か月程櫂をひきつづけた後、竿(さお)をさすという仕事が待っています。

「竿をさすのは、櫂のしんどさどころじゃなかったですね。体力的だけでなく精神的にもつらくて、毎日川の流れが違う中でどこに竿をさしたら良いか悩むんです」

川の流れをちゃんと理解して、どこに竿をさすのかを判断しなければならず、舵(かじ)をとる人とのコンビネーションが必要になります。

この仕事を覚えるのには、1年程かかるのだそうです。

竿の仕事で川の流れが理解できるようになると、最後は舵(かじ)の仕事を覚えます。

「舟のハンドル機能を担う舵(かじ)が一番大変。竿がどれだけ頑張っても、舵が舟を変な方向に向けられたらどうしようもないですからね」

この舵の仕事を熟達するのには、さらに1年かかるそうです。すべての仕事を覚えるようになるには丸2年が必要になります。

「船頭は3人1組なので、新人1人に2人の師匠がついて2年間みっちり育ててもらうんですよ。その人の癖とか性格とか把握してもらいながら教えてもらって、すべての場所ができるようになってやっと1人前になるんです」

プロジェクト保津川

「2012年、亀岡に世界中の研究者や大臣を集めて『海ごみサミット』を3日間にわたって盛大に開催したんです」と語る豊田さんは、保津川下りのお仕事だけでなく海や川のごみ問題に取り組む「プロジェクト保津川」の活動にも尽力されています。

しかし亀岡には海がありません。海のない亀岡でなぜ『海ごみサミット』が行われたのでしょうか。

「海ごみサミットってもともと海の町で開かれてたんですね。漁師さんと連携してゴミ問題に取り組んだりしてたんですけど、実は根本の問題は川にあるんじゃないかと思ったんです」

そう考えるようになったのは、船頭として仕事場となる「川」の清掃をしている経験からでした。その目線から海のごみ問題は、内陸で暮らす私たちが川を通って生み出したものではないかと考えます。

そこで豊田さんを中心に、環境問題の研究者などをまじえたNPO団体「プロジェクト保津川」を立ち上げました。

ごみの行方を追って

プロジェクト保津川の活動は、川のごみが本当に海まで行っているか追跡調査からはじまりました。

「GPSでこの保津川から防水パックを流したんです。すると水位が高い日だと、1日で大阪湾まで行ったんですよ。最後明石海峡まで行ったものもありました」

この調査で、保津川周辺を含む内陸の地域から出たごみが間違いなく海にまで流れ出ているということが証明されました。

「つまり内陸にいる私達からごみ問題を理解し取り組んでいかないと、海のごみ問題は根本解決できないですね。だから海ごみサミットをあえて内陸地域の亀岡することに意味があるんです」

「ごみマップ」アプリの開発

またプロジェクト保津川では「ごみマップ」というアプリを開発。地域の方にご協力いただき、ごみを見つけたら写真を取ってアプリに入れてもらうようにしました。

「このアプリでは、どこに、どのくらい、どういう種類のごみが落ちているかデータを蓄積させることができるんです」

地域自治会の方たちにもご協力いただくため、アプリの使い方講習会も開催。当時はまだそれほどスマートフォンが流通していなかったため、ほとんどの方がガラケーを使いながらも協力してくれたのだとか。

「アプリで蓄積したデータを見てみると、ごみの種類で一番多いのはプラスチックごみだということが分かりました。プラスチックごみは、一回海に出たら回収不可能なんですよね。だから川の段階でそれを止めたいんです」

プロジェクト保津川の活動の成果もあり、2018年、亀岡市は「かめおかプラスチックごみ宣言」を行い、2030年までに使い捨てプラスチックごみがゼロのまちを目指すと発表しました。

使い捨てレジ袋

プラスチックごみの中でも「レジ袋」の削減に、プロジェクト保津川はどこよりも早く取り組みはじめます。

なぜなら、日々保津川の清掃をする中で目にするごみの多くが風化したレジ袋のビニール片だったからです。実はペットボトル以上にレジ袋ごみが多いのだとか。

「レジ袋の削減は1人1人の意識の問題で解決ができますよね。私たちはただプラスチックを使うなと言いたいわけではなくて、使い捨てはやめましょうって言いたいんです。レジ袋のほとんどは使い捨てで、必要以上に供給されていますよね」

ペットボトルや発泡トレーは商品そのものに付随するため買わざるをえませんが、レジ袋は個人がマイバックを持つことで削減できます。

そして各所協議を重ねた結果、2019年8月亀岡市内スーパー6店舗、商店街賛同店54店舗が一斉にレジ袋を有料にしました。

ローカルの発信が国を動かす

当初は「なぜ亀岡みたいな小さな町でやるんですか? それは意味があるんですか?」と多くの方に訊かれたのだそう。

「国のような大きな組織が全体のルールをいきなり決めていくのは難しく、まずは小さなローカルな単位で事例をつくっていったら、国も動いてくれると思いました」

実際にこのレジ袋有料化の取り組みは環境省や経済産業省にも注目され、2020年7月より全国一斉レジ袋有料化につながりました。

これからもプロジェクト保津川および亀岡市は、「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」を掲げ、2030年の使い捨てプラスチックごみゼロに向けて取り組みは続いています。

「普段から保津川下りのその先を考えながら、地域のために、産業のために、何かやりたいなっていう思いがあるから、しんどいことでも続けていけるんだと思います」

記者をやられていた時から、社会問題の解決には実践者の必要性を感じていたという豊田さん。

「環境問題に取り組むことはコストがかかり、一般市民には関係ないみたいな考え方はもう時代遅れですよね。この問題は、保津川とともに仕事をしている私達から発信をしていくことでうまく絡まって、亀岡全体のイメージがよくなっていったらいいなと思います」

長い歴史をひきつぐ保津川下りの船頭さんから始まったムーブメントが、日本の環境課題を次々に解決していくかもしれません。

環境先進都市を目指す亀岡市にぜひとも皆さまご注目ください。

また亀岡市に来た際には、きれいに清掃された川に注目しながら保津川下り体験してみてください。

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