ガラスとの出会い

固体のガラスを高温で溶かして形にしていくガラスの世界。素材としての自由度が高く、あらゆる形のものの制作が可能です。
なにより「色」の美しさがガラスの大きな魅力ではないでしょうか。
陶芸では実現できない、「透明」はもちろん。「白」ひとつとっても、透明色の白や不透明色の白など様々な色が絵具と同じくらいの数があります。

Glass Studio Caloreでは、多いときでは月に50件程、「吹きガラス体験」の予約が入ると言います。
工房では代表の松本さんが楽しいトークで体験を楽しませてくれます。
そんな松本さんは、どうして「ガラス」をはじめようと思ったのでしょうか?
「高校を卒業してサラリーマンになり、アルミ建材の営業をしていました。務めていた会社で、アルミの溶接を見て、『おもしろそうだな、やってみたいな』と思いやらせてもらうと、『意外とできた!』が始まりですかね。」
このアルミ溶接をさせてもらったことがきっかけで、ものづくりに興味をもった松本さん。
「実際にガラスづくりに出会ったのは、北海道に社員旅行で行った時です。吹きガラスをつくっているのを見て、『ガラスって人が作ってるんや!』ととても驚きましたね」
当時「ガラス」に注目したのは、若かったこともあり「人とは違うことをやりたかったから」だそうです。
その後、会社を退職し、大阪にある専門学校に通い始めます。
しかし専門学校では、プロダクトデザインを中心とした講義がほとんどだったそうです。
「吹きガラスの授業は2年目からたった週に1回だけでしたが、とても楽しかったのを覚えています。吹きガラスを教えてくれていた『辻野 剛(つじのたけし)』さんは、ヴェネチアンガラスで有名な作家さんで、初めてかっこいいと思った人でした」
辻野さんに強いあこがれをもった松本さんは、「この人と一緒に働きたい」と思いはじめます。しかし、専門学校に通ってはいたものの、たいして技術も磨けていない自分ではこの人と働けないと思ったそうです。

そのため北海道で新しくオープンするというガラス工房への就職を決め、吹きガラスのスキルをあげるべく、専門学校を中退し、北海道で吹きガラスを実践的に学びました。
少しずつ「ガラスづくり」が分かりはじめた頃、耳寄りな情報が飛び込んできます。
「辻野さんが大阪で新しくガラス工房つくるという話を聞いたんです。北海道の工房を辞めて、すぐに辻野さんに働かせてほしいって言いにいきました」
辻野さんとの日々
こうして憧れだった辻野さんと働くことになった松本さんでしたが、ここでもなかなかガラスづくりをするまでには至らなかったとか。
「辻野さんが工房をつくるって聞いて、実家に帰って、実家からその工房に通うことにしました。でも辻野さんには、『今は家をつくってるんや』っていわれまして、その時はこの人なにを言ってるんやろ?と思いましたね(笑)」
まずは、新しい工房に隣接する「家」からつくりはじめるという辻野さん。なんでも作ろうとする辻野さんに「この人はすごいな」と思いながら、約2年間家づくりを手伝っていたそうです。
約2年間もの期間「ガラスづくり」ではなく、「家づくり」をしていて不満には思わなかったのでしょうか。

「いや、それがすごくおもしろかったんですよ。家を自分で一からつくろうとは普通思わないじゃないですか。インターネットが普及していない時代に、図書館で家の構造とかを探して、つくっていましたね」
2年かけてできた家は、とてもクオリティーの高い立派なものだったそうです。
松本さんはこの時の経験を活かし、現在の工房でも内装や事務所、商品棚などを自ら製作されています。

「僕は辻野さんに会っていなかったら、いろんなものを自分でつくろうとか思ってなかったと思う。たぶんもっと悲惨な生活をしてたんやと思う」
辻野さんは、ガラスづくりに限らず「ものづくり」という点で、一番影響を受けた方だそうです。
まずは、考えぬくこと
辻野さんからも学んだ通り、なにごともまず「考えぬく」ことが大事だという松本さん。
「家ってどうやってできているのか、木はどういう風に切るのか、そういったことをまずは考えてみて、調べても分からなかったら、人に聞いてみたらいいと思います」
分からないでは終わらせず「まず自分で考えて、調べてから人に聞くこと」でさらに「人とのつながり」を生むことにもつながったといいます。

「あんまり考えてない人は助けようとは思わないと思うんですけど、一生懸命考えている人には手伝ってあげようかなと思うじゃないですか。考えている相手には、助言してくれたり、手を差し伸べてくれる誰かが現れるものですね」
この「考えぬくこと」は、ガラスにも通ずるものがあるようで
「ガラスで、『こんなん作ってほしいです』って言われたら、「無理です」とは極力言わず、自分の持っている技術でどうやってできるかを考え抜くようにしています」

「言いふらす」ことから生まれるもの
5年ほどで辻野さんの工房を辞めた松本さんは、その後、箱根や伊豆のガラス体験工房で働きました。そして貯金がある程度たまった頃、独立を決断します。
ゼロから工房を始める上で、工房内にある設備を揃えるのにも多額なお金がかかったのではないでしょうか。
「いやそれが、僕おそろしく運がよかったんです。 独立を決めた際に、ものすごく周りに言いふらしたんですね。すると、『これ使うか?』とか『これいるか?』と、自然といろんなものが集まってきたんです。この溶解炉も譲り受けることができたんですよ」

自分は運がよかったという松本さんですが、「言いふらす」ことでたくさんの方に助けてもらっているのもまた、松本さんのすてきなスキルではないでしょうか。
一緒につくる 吹きガラス体験
連日、「吹きガラス体験」の予約が入るGlass Studio Caloreですが、次から次に人が体験に来られるのは大変ではないのでしょうか?
「僕は作家としてはすごく変わっていて、結構体験が好きなんですね。教えてあげるっていう感じではなくて、一緒に作って楽しかったって思ってもらえたらそれでいいんです。むしろ1日ずっと黙々と同じものを作っていることのほうが、僕にとっては辛いですね(笑)」

そんな松本さんは体験予約をいただく時、お客さんが体験される前後の予定をきくようにしているそうです。
「せっかく亀岡に来たのだから、ガラス体験だけではなくて、ここのランチ美味しいよとか、ここにはイケメンがいるよ!とか、亀岡をより一層楽しめるようなところも紹介したいなと思っています。楽しくガラスを教えてくれた人のおススメだったら、行ってみようかなって思ってもらえるようにコーディネートするのも面白いんです」
松本さんだからこそ紹介できるスポットや人があるので、吹きガラス体験だけではない亀岡の魅力にも触れてほしいといいます。

そんな松本さんの今後の展望について聞いてみました。
「亀岡が長く人気が続くようなまちになったらいいなと思います。そして自分もそうでありたいなと。作品の魅力というよりかは、人や場所の魅力が際立って長く細く商売がしていけたらいいですね」
そんな魅力あふれるGlass Studio Caloreの「吹きガラス」体験は、松本さんが軽快なトークで楽しませてくれます。大満足な体験になること間違いなしです。
ぜひ体験に来られた際は、亀岡の魅力的なスポットと合わせてお楽しみください!